居住用不動産賠償に関する弁護団の基本方針 公表のお知らせ
「福島原発被害者支援かながわ弁護団」では,2012年9月3日,各地の弁護団と共同で,東京電力福島第1原子力発電所事故により避難を余儀なくされた被害者の居住用不動産の賠償について,弁護団としての基本方針を公表しましたので,お知らせいたします。
この基本方針は,先に公表された東京電力株式会社の賠償基準が,被害者の生活基盤の確保に十分なものとは言えないことも踏まえ,各地の弁護団において検討を重ね,公表するに至ったものです。
居住用不動産賠償に関する弁護団の基本方針(全損の場合)
2012年(平成24年)9月3日
基本となる考え方
本件原発事故により,被害者が従前生活の拠点としてきた住宅(土地,建物)は,放射能による被曝や長期の強制的,集団的避難等により,現在に至るまで生活の基盤としての機能を全面的に喪失した。
被害者は,「土地」「建物」という個々の不動産についての交換価値を喪失したのではなく,生活の基盤そのものを喪失したのである。
他方,本件原発事故は,被害者に対し何らの時間的余裕を与えずに避難を余儀なくさせた。被害者はそれぞれの縁や伝手を頼りに,着の身着のまま,全国各地へやむなく避難していったのである。ほぼ全ての被害者にとって,移転先を選択する余地などなく,その場所での生活再建のための基盤を構築せざるをえない状況にある。
従前の生活基盤を失わせ,避難した先での生活基盤を構築せざるをえないという本件原発事故の被害実態を考慮すれば,本件原発事故による居住用不動産の損害は,単に喪失した不動産の交換価値の賠償ではなく,被害者がそれぞれの移転先において生活基盤を回復できるだけの賠償,すなわち,当該移転地での生活基盤の再取得価額の賠償がなされなければならない。
居住用土地についての賠償の考え方
1 方針
居住用土地の所有者に対して,1368万8000円を標準賠償価額として賠償すべきである。ただし,従前有していた土地の広さや価値に応じて補正を行うことができる。
2 理由
上記基本的考え方のとおり,いかなる場所に避難した場合でも,その場所での生活基盤の回復が必要であり,本来ではその場所における,一般的な広さの居住用土地を購入できるだけの賠償がなされるべきである。
しかしながら,土地の地価については地域差があるため控えめな賠償価額として,少なくとも全国平均としての賠償価格の賠償がなされるべきである。
そこで,住宅金融支援機構「平成23年度フラット35利用者調査報告」における,土地付き注文住宅利用者の土地取得費の全国平均額(19頁「土地付注文住宅融資利用者の主要指標」「土地取得費 平成23年度 」である,金13,688,000円」(敷地面積の中央値は192㎡)を標準の賠償価格とすることとする。
もっとも,従前に有していた土地の広さや地価など,個別の事情により調整すべき要素もあることから,上記賠償価格を出発点として,賠償額の調整が行われるべきである。
居住用建物についての賠償の考え方
3 方針
2238万円を標準賠償価額とする。ただし,従前有していた建物の広さや価値に応じて補正を行うことができる。
仮に,いわゆる経年減価を考慮した賠償額決定を行う場合であっても,損失補償基準を使用するなど,生活再建を考慮した基準を活用した賠償額の算定がなされるべきである。
4 理由
第2と同様,全国平均としての賠償価格の賠償がなされるべきである。
そこで,土地と同様にフラット35の統計データに基づく住宅建設費の全国平均値である金22,380,000円(住宅面積の平均値は115.3㎡)を標準の賠償価格とする。土地と同様,従前の建物の広さ等,個別の事情がある場合には,この標準賠償価格から調整を行った賠償額の算定がなされるべきである。
また,仮に,従前の建物の築年数から経年減価を考慮して賠償価格を算定する場合であっても,移転先での生活基盤の再建が本件事故における損害賠償の基本であることから,公共用地の取得に伴う損失補償基準等,被害者の生活再建を考慮した算定基準を用いた賠償額の算定を行うべきである。
第4 個別事情に応じた賠償
上記の考え方のほか、被害者の個別的な実情等に応じた賠償額の算定をなすことも可能とする。
団長 丸山 輝久
福島原発被害者支援かながわ弁護団
団長 水地 啓子
原発被害救済千葉県弁護団
団長 福武 公子
福島原発被害首都圏弁護団
共同代表 森川 清
同 中川 素充
「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団
団長 安田 純治
福島原発被害救済新潟県弁護団
団長 遠藤 達雄
福島原発被害弁護団
共同代表 小野寺 利孝
同 広田 次男